
細やかな仕事が光る・井波彫刻師 奥村厚一
修行と制作と
「彫刻師になったのは、親が彫刻師で、子供の頃から親の仕事を見ていたから。ちょうど井波彫刻が忙しかった時期で、人が足りんでなったんですよ。」
昭和33年、高校卒業後に父のもとに弟子入りした。
修行時代に楽しかったことは、人と話すこと。
子供の頃からよく知る同じ井波出身者はもちろんのこと県外から来ている同期も多かったそうで、それがまた忙しい日々を乗り切るモチベーションにもなっていたのだろうか。
入った年が一番忙しく、朝早くからはじめ、夜は22時まで仕事をするのも当たり前の日々だった。正月に入るまでがとにかく忙しく、三交代制で回っていたというから驚きだ。
高度経済成長期を経て住宅の建て替えラッシュが起こり、居間に欄間、玄関先に彫刻衝立というのが当時の新築におけるステータス。そこで注目されたのが井波彫刻だった。
獅子頭制作からはじまり、父が荒彫りした松竹梅や四君子等がモチーフの欄間の下削りをし、やがて仕上げを任されるように。それからは自分で最初の荒彫りから手掛けるようになった。
その後は自分でも仕事を取るようになり、独立。朝10時から夜の19時まで欄間等の依頼仕事をしながら、展覧会用の作品制作を夜の22時から朝の4時くらいまで。当時、井波彫刻師達の中では日展をはじめとした大きな展覧会へ出展する動きがあり、奥村氏も自身の作品を出展していた。
楽しいが忙しい日々だったと、当時を振り返る。
細かな仕事が光る
奥村氏の作品の特徴は、なんといってもその細かさにある。
繊細で精密な、ひとつの木材だけで作り上げたとは思えないような仕上がり。制作するものは昔から欄間が中心だが、2009年頃からはだんじりの仕事も手掛けるようになった。
手分けして3か月くらいとのことだが、あのだんじりの細かな細工を手分けしてとはいえ3か月で作ることができるのは熟練した匠の為せる技だ。
細部まで美しく
自宅兼工房には、奥村氏の様々な作品が並ぶ。
牡丹や菊、竹等の植物モチーフのものから、鶴や鯉等の縁起の良い動物も。どれも奥村氏の真面目な人柄を表すように、一つ一つ細かなところまで丁寧に精緻に仕上げられている。
たとえば奥村氏の工房に飾られた精巧な鯉は、木でできているとは思えないリアルな質感はもちろんのこと、まるで水の中をするりと泳いでいるかのように微細な動きまでが巧みにあらわされている様は、まさに感嘆の一言だ。
他にも、茸を模したファンタジックかつ繊細な美しいランプなど、奥村氏がこだわり抜いて制作した繊細な作品が並び、パッと見の美しさはもちろんだが、細部までハッとするほど精緻に作り込まれた彫刻は「職人技」という一言で言い表してよいのかと思ってしまう。
熟練の技とその思い
―奥村さんの作品はとにかく細かく繊細に作られていますね。
細かい作業が好きかもしれない。ここをどういうふうにすれば面白いかと考えて作ります。透かし彫りの、裏側を作るのが楽しいですね。やりすぎるともろくなってしまうから、限度を考えてどう作るか考えて彫っていくのは面白いです。
―こういった繊細な技術はやはり欄間で培われたのでしょうか。
そうですね。
―今後やってみたいことや、作りたいものについて教えてください。
もし時間があれば、昔展覧会等でやっていたような自由な工芸をやりたいですね。
―自由に作れるならどんなものを作りたいですか。
大きいもの、欄間等がいいですね。もしあるならば、神代欅で変わった図案のものを作ってみたい。
あとは生活になじむようなもの。インテリアとして空間に入れていくものが好きです。