
職人ひとすじに、時代とともに・井波彫刻師 高桑良昭
職人として生きる
父の背中を見て育ち、自然とそのまま彫刻師になったという高桑氏。
高校卒業後は日展作家でもあった堀友二氏に師事した。日本美術工芸展や日展にも出品し入選するなど、工芸作家としても活躍した。
現在は展覧会への出品をやめているが、それは自身は作家ではなく職人だという意識もあり、「自分の方向性とは違うような気がした」からだという。
井波彫刻の良いところを「技術」「きちっと仕事ができるところ」と表す高桑氏。
商品となる小物類ひとつを取っても、同じものはひとつひとつ、すべて寸分たがわぬ仕上がりだ。素人からすると機械を使わずに、それも彫刻で全く同じものを手作業でいくつも作るなんてことは神業のように思えるが、それも「親方のを見ていくつも同じものを作ってきたから」と高桑氏にとっては特別なことではないという。
工房には…
寡黙でいわゆる昔ながらの職人気質の人、という印象がある高桑氏だが、「鳥第一主義やから」と2羽のインコ、めいちゃんとあーちゃんと工房で過ごす様子はほっこりしてしまう。
基本的に部屋の中で放し飼いにしているそうで、時折カップに入ったコーヒーを飲みに来るのだとか…まるで絵本の世界のよう!
そんなエピソードを交えて小鳥たちのことを楽しそうに語る姿がとても印象的だった。
時代の感覚を持って
「将来的には井波彫刻の彫刻師は減っていくと思うが、時代時代のその感覚を持って新しいことに挑戦していければ乗り越えられると思う」と静かに語る高桑氏。
獅子頭や天神様、鯉など伝統的な縁起物を数多く手掛けてきたが、そうした伝統的なモチーフを用いた新しい商品づくりにも意欲的に取り組み、井波彫刻らしさはそのままに、新しいかたちで日々に寄り添う商品を作り続ける。
新しい試み
―木彫刻のピンバッジや帯留めは今までになかった新しいものですね。なぜ作ろうと思ったのでしょうか。富山県のお寿司のピンバッジ(非売品※2025年1月時点)も素敵でした。
時代が変わってきたので新しいものをやってみようと思い、中でも身に着けられるものがあるといいかなと思って作りました。昔と違って決まったものの需要があるわけではないですし。
寿司のピンバッジは県からの依頼があって作りました。富山県が寿司で県のPRに力を入れているので、それで。今のところ販売はしていませんが、東京のお寿司屋さんからも問い合わせがありましたね。
―現在販売している帯留め、ピンバッジのモチーフは獅子頭と雲ですが、なぜそれらを選ばれたのですか。
井波らしいモチーフにしようと思って選びました。獅子頭は今まで多く手掛けてきましたから得意なモチーフでもあります。獅子頭モチーフの小物はこれから種類を増やそうと思っています。
―今後挑戦したいことや目標等についてお聞かせください。
自分で良いなと思ったものを時代に合うように考えるのは楽しいから、それをやっていきたいですね。