多様な“思い”を形にする職人・井波彫刻師 南部寿宣
「お客さんと話しながら、お客さんの“思い”を作ってあげることやね。」
欄間や天神様といった井波彫刻の代名詞から屋台彫刻、デフォルメされたかわいらしい生き物、さらには新素材の製品まで、幅広い仕事を手掛けてきた南部寿宣氏。
自身を「職人的」と評する、その多彩な仕事の背景には、依頼主の思いに応えようとする、一貫した姿勢があった。
職人としての歩み
井波彫刻師の父のもとに生まれた南部氏。
県立高岡工芸高等学校工芸科を卒業後、父・武志氏のもとで3年ほど修行を積んだのち、二代目今井幸太郎氏に師事した。
今井氏は、弟子のそれぞれの力量に応じて仕事を与えるタイプの親方だったという。
そこで、欄間や獅子頭を中心に技術を磨いた。
5年ほど今井氏のもとで経験を積む中で、自分自身でも依頼を受けられるようになったことを契機に独立。
「特に独立すると宣言はせず、自然とぼちぼち独立した」と当時を振り返る。
後方左から2番目が南部寿宣氏の父・武志氏。
屋台彫刻の思い出
南部氏にとって若い頃の思い出として残っているのが、姫路の祭屋台に携わった仕事だ。
もともとは井波彫刻協同組合で受注した依頼だったが、納品した彫刻の修理のために姫路へ足を運んだことをきっかけに、現地の人々との交流が生まれ、新たな仕事へとつながっていったという。
そこで依頼されたのは、姫路市の秋の風物詩として知られる灘祭りに使用する大きな屋台の依頼だ。
灘祭りは「灘のけんか祭り」とも呼ばれ、総重量約2,000㎏の屋台をぶつけ合ったり、高く差し上げたりする、激しい祭りだ。
この灘祭りの屋台で、南部氏は豪壮な四神を配した屋台彫刻を制作した。
灘祭りの屋台のため制作した四神。「感謝状もいただきましたよ。平成5年のことでした。とても大きな屋台だったのですが、納期が1年もなく。
本来、関西のだんじりや屋台の彫刻は一木が基本の井波とは作り方が違って、3枚で一つのパノラマになるように作るんです。
初めてのことでもありましたから周囲の協力も得てなんとか納品しました。
井波彫刻は昔から助け合って成り立ってきたんですよ。」

「持っているものはすべて教える」井波の職人文化
職人同士の助け合いによって成り立ってきた井波彫刻。その気風は、技術を学ぼうとする人々を受け入れる姿勢にも表れている。
井波彫刻協同組合主催の彫刻塾で講師としても活動する南部氏。
県の内外から様々な塾生が通う彫刻塾だが、その中で、祭屋台の彫刻を学びたいと県外からやってきた生徒がいるという。
最初は関西のだんじり職人のもとに教わりたいと訪れたが、素人の遊びには教えられないと言われ、辿り着いたのが井波だった。
井波の彫刻塾は趣味で始めたい人から彫刻師としてプロを目指したい人まで誰でも受け入れる。
南部氏は、それを「持っているものはすべて教える」井波の職人文化だと言う。
だから自身も自分の持てるものは教えたいし誰でも受け入れると語った。
助け合いで成り立ってきた井波彫刻の精神は、技術だけではないのだ。
作品にあらわれる顔
天神様や繊細な透かし彫りだけでなく、丸くかわいらしいひな人形や五月人形、動物、はたまたアマビエまで。南部氏の工房には様々な作風の作品が並ぶ。
取材の日、南部氏の手元には女性の塑像があった。
徳川家康の養女、国姫の像とのこと。
南部さんは、人物像の顔を作るときにどのようなことを考えますか。
こういう風にしようとか、思いを入れるようなことはありますか。
―「例えばこの国姫像ならば、彼女はどのような人生を生きてきた人なのかということを考えますが、“思いを入れる”というのはありません。
天神様もそうですね。
天神様にしても国姫にしても、実際の顔を知らない歴史上の人物の像は、どういう人だったのか、解釈を繰り返し想像しながら作ります。
それでもやっぱり自分の顔になる。似るもんらしいですよ(笑)
でもそれは誰が作ってもそう。『その人が作った顔』がある。」

五月人形「薫風」の作品ページはこちら
職人として
「井波彫刻は基本的に職人」であると言う南部氏。
お客さんとコミュニケーションしながら、相手が求めるものを作ってあげるのが好きだから、自分は職人的なのだと言う。
南部さんは今後、取り組んでみたいことなどありますか。
―欄間はもう現代住宅では入れにくいので、現代住宅に合う商品にも取り組みたいですね。
富山県産杉を使ったものも作っていきたいです。
そういえば、杉でチェーンソーアートをやってみたことがあるのですが、やっぱり細かいところの表現がチェーンソーだと難しくて。ノミに戻ってきてしまいました(笑)
最近では、漆と五箇山和紙で作る新素材「ウルシート」を使った商品も手掛けている。
ウルシートは南部氏の同級生が立ち上げた、株式会社Japansが手掛ける地球にやさしい新素材だ。
「漆でかぶれやすいから今まで扱わないできたんやけど」と南部氏は笑う。

チェーンソーアートやウルシート製品のような、井波彫刻師でありながら井波彫刻の型にとらわれず新たなものにも取り組む。
手掛けるものは多岐にわたるが、その根底にあるのは、依頼主の思いに応えようとする姿勢だ。
「お客さんと話しながら、お客さんの“思い”を作ってあげること」
確かな技術で様々な“思い”を作る。南部氏の幅広い仕事には、そんな職人としての姿勢が表れているように感じられた。