井波彫刻とはAbout
井波彫刻は、富山県南砺市井波地域で発展した国の伝統的工芸品で、250年以上の歴史を誇ります。
社寺の装飾を中心磨かれた技術は、やがて一般住宅の欄間や置物といった形で広く浸透していきました。現代では、インテリアやアート作品としても注目されています。
木材を鑿(のみ)だけで巧みに彫り上げる技術が特徴で、細部にわたり精緻な彫刻が施されています。井波彫刻は、日本の美意識と職人技が融合した芸術であり、その深い歴史と美しさは国内外から高く評価されています。


井波彫刻の歴史と発展
井波彫刻の起こり
井波彫刻の歴史は、江戸時代中期の1777年、真宗大谷派の寺院である瑞泉寺の再建から始まりました。この時、京都の東本願寺から派遣された大工と御用彫刻師たちが井波大工に技を伝授したことがきっかけでした。
社会の変化と技術の深化
明治維新の到来とともに、それまでの社寺中心から一般住宅へと需要が広がりました。明治期に再び焼失した瑞泉寺本堂再建を経て、大正9年に竣工した太子堂は井波彫刻の技術の粋が結集された最高傑作として今も語り継がれています。この時期、欄間という新たな代表作も生まれました。
井波彫刻の全盛期
昭和期に入ると欄間の人気が急上昇。高度経済成長期には職人数が400名を超え、北陸地方を中心に住宅の必需品として定着。天神様の木彫など、暮らしに根付いた伝統工芸として確固たる地位を築きました。また、数々の日展作家を輩出し、芸術分野でも高い評価を得ていきます。
新時代への挑戦
現在も多くの職人たちが伝統技術を継承しています。社寺彫刻や欄間といった伝統的な作品はもとより、現代の住空間に調和する新しいデザインの開発にも積極的に取り組んでいます。その卓越した彫刻技術と芸術性は徐々に見直され始め、伝統工芸としての価値が改めて注目を集めています。




井波彫刻の制作工程
井波彫刻の大きな特徴として、一人の職人が工程のほとんどを担います。また、制作には200本以上の鑿(のみ)を使い分け、やすりがけはせずに仕上げていきます。制作する内容により工程は異なりますが、以下では、欄間の制作工程をご紹介します。
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1原木選び
くすのき、けやき等をおもに国内から仕入れる。
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2自然乾燥
半年~1年。
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3大きさや厚さを考えて製材
井波内にある製材所へ持ち込み、熟練の職人が、作る彫刻に合わせて最適なサイズ・厚みで切り出す。
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4下絵作成
デザインを考え和紙などに描く。
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5穴あけ
下絵を材料に写し、図柄のおよそのアウトラインにそって、糸ノコ機で不要部分を切り取る。
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6荒おとし
図柄全体の不要な部分を15種類ほどの荒けずり鑿(のみ)をゲンノウでたたき彫り崩して、輪郭の大体の目安をつける。
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7自然乾燥
約1ヶ月。
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8荒彫り
図柄全体をさらに数十種類の鑿(のみ)を使い分け彫り下げ表面をより立体的にし、実在感を出していく。
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9小彫り
さらに彫刻を浮き上がらせるため、細い荒彫り鑿(のみ)200本以上を使う。
※欄間では、ここまでの工程を裏面も同様に仕上げる。表面を鏡で写しながら、すき間から表と裏のデザインがずれないように彫っていく。 -
10仕上げ彫り
細かい部分を緻密に彫り、ペーパー類は一切使用せずに鑿(のみ)のタッチだけで仕上げる。
※職人はふつう 100~120本の鑿(のみ)を使い分け約200本持っている。(1本2,000円~5,000円ぐらい)
※作品により、工程段階に塗りが入ったり異なる場合がある。
※完成日数(欄間:二枚一組で約3ヶ月、獅子頭:約3週間)